2021.02.27

ブログ

COVAXファシリティについて

コロナワクチンを世界の公共財として途上国に供給する意義、公明党が推進してきたCOVAXファシリティが果たす役割、副反応の情報公開の必要性など、これまで私自身も注力してきた課題について専門家の解説記事。

コロナ禍で内向き傾向や自国第一主義が強まる中、国内のみならず世界の中にある日本を見つめ、責任ある国家として果たすべき使命を捉える複眼的視点が今重要と考えます。少し長いですが、ぜひご一読ください。

(土曜特集)新型コロナワクチンの途上国への供給、国際協調で/英キングス・カレッジ・ロンドン・渋谷健司教授に聞く公明新聞電子版2021年02月27日付 

◆土曜特集(本文)◆
新型コロナワクチンの途上国への供給、国際協調で
ー英キングス・カレッジ・ロンドン・#渋谷健司 教授に聞く

 世界保健機関(WHO)などが主導する新型コロナウイルス用ワクチン共同調達の国際枠組み「COVAXファシリティー」【図参照】は今月、英製薬大手アストラゼネカ製などのワクチンの初回供給を、145カ国に行える見通しが立ったと発表した。24日には、COVAXの出荷第1号となるワクチンが、アフリカ西部ガーナの首都アクラに到着した。コロナワクチンの供給における国際協調の重要性について、英キングス・カレッジ・ロンドンの渋谷健司教授に聞いた。

■先進国の接種だけではパンデミック収束せず

 ――コロナワクチンの接種が各国で始まった。

 渋谷健司教授 非常に良質のワクチンが短期間で開発されたことは科学の勝利だと思う。

 これについては、日本も、2016年の先進7カ国(G7)伊勢志摩サミットで感染症危機管理の重要性を説き、国際組織「感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)」の創設に役割を果たした。今使われているコロナワクチンはCEPIが投資した企業のワクチンであり、日本の貢献が花を開いたと感じている。

 接種が始まったワクチンは、発症や重症化の予防に関してはすでに非常に高い効果を示しており、大いに期待している。実際に感染を予防できるかどうかは、それを支持する結果が出てきてはいるが、引き続きデータを見ていかねばならない。

 ワクチンの接種開始は、今の状況から脱するためには非常に良いニュースだが、国民の多くが抗体を持つ「集団免疫」に至るまでは相当な時間がかかる。マスクの装着、手洗いの励行、三密回避や社会的距離、そして、検査・追跡・隔離の必要性は、今後もしばらく続くだろう。接種が始まったからコロナ禍が終わるというような誤った印象を世間の人に与えてしまうのは良くない。

 ワクチンの供給量はいまだ先進国においても限定的で、イスラエルや中国、米国、英国はかなりの量を打ち始めているが、日本も含め、その他の国はまだ接種が始まったばかりだ。

 ――国によってワクチンの接種量に差が生じている。

 渋谷 自前でワクチンを確保できた国は、まるで“ワクチン・ナショナリズム”の様相で、しのぎを削って自国民に接種をしているが、新型コロナウイルスはパンデミック(世界的流行)だ。いくらワクチンをたくさんの自国民に打って「集団免疫」を得たとしても、他の国でコロナの感染が続いている状況では、コロナの収束とは言えない。

 ともすれば現在は各国の“ワクチン争奪戦”のような状況だが、貧しくてコロナの治療やワクチンにアクセスが無い人への対策も講じないと、いくら先進国の国民だけワクチンで守られたとしても、パンデミックは終わらない。

 コロナは世界的に弱者、貧困層を直撃する。途上国だけの問題ではなく、先進国内の問題でもあるし、健康格差の問題だ。健康格差という今まで潜在化していたグローバリズムの問題が顕在化した。今回を契機に国際社会がきちんと格差の問題に向き合い、解決できるかが試されていると思う。そこで重要となるのが、COVAXだ。

■COVAXに重要な役割/日本の貢献を高く評価

 ――公明党の後押しもあり、日本政府は昨年9月、先進国でいち早くCOVAXへの参加を表明した。多くの国が続く流れが生まれ、参加国は昨年12月15日時点で190カ国・地域まで広がっている。

 渋谷 COVAXは、WHOやCEPI、途上国の子どもたちへの予防接種を推進する国際団体「Gaviワクチンアライアンス」が共同して設立した枠組みだ。

 特徴は、二つの枠組みを組み合わせた点にある。一つは、参加する高・中所得国が資金を前金で拠出し合い、製薬各社におけるワクチンの研究開発や製造設備の整備を支援し、ワクチン価格を下げることだ。開発が成功した場合は、安全性や効果が確認された上で、自国用として人口の20%相当分を上限にワクチンを確保できるようになっている。

 もう一つの枠組みは、国や団体からの拠出金でGaviを通じて途上国にワクチンを供給するもので、日本も国際貢献として、2億ドル(200億円超)を拠出すると表明している。

 ――19日のG7首脳会議では、COVAXに計75億ドル(約7900億円)を拠出することで合意した。

 渋谷 G7のリーダーが相当額をコミット(関与)したということは、コロナ禍を終わらせることが国際社会の最優先の課題であり、先進国だけがコロナワクチンを受ければそれで済む話ではないという意思の表明だと思う。「世界中の人がワクチンを受けられるようになるまではコロナ禍は終わらない」という重要認識で一致したことは素晴らしいことだ。日本政府の貢献を高く評価したい。

 COVAXの目的は、できるだけ多くの人に安くコロナワクチンを届けることだ。

 これに関して、中国やロシアはCOVAXとは別に独自で低開発国へのワクチン支援を強力に行っている。ただ、国際政治競争にするのではなく、できれば一緒にやってほしい。

 国際協調の中で、覇権主義ではなく、責任ある国家としてCOVAXに入ることも大事だと思う。今回のコロナの問題の一つは、国際社会が分断されてしまったことだ。せっかくワクチンができて、これからというタイミングなので、できれば日本がリードし、政治競争ではなく国際協調の方向に進めてほしい。その象徴にCOVAXはなり得る。

■国民に副反応への懸念も/情報公開に一層注力を

 ――現在のパンデミックが収束した後も、新たな感染症が発生する可能性がある。ワクチンの国内生産体制など今後の課題は。

 渋谷 今回改めてよく分かったことは、日本は近代的なワクチンを作るキャパシティに乏しいということだ。これはコロナ以前から指摘されている構造的な課題だ。日本のワクチン政策は長期的戦略に乏しく、ワクチン産業も小規模で護送船団方式で守られ、国際競争力が無い。パンデミックになればワクチンの争奪戦になるのは目に見えていた。ワクチンは公衆衛生の問題でもあるが、実際には国家安全保障の課題だ。

 もともと国家安全保障に強い国はワクチン開発や接種までの時間が早い。米国やイスラエルなどが典型だろう。こうした国のワクチンに対する戦略的な立ち位置や認識は国家予算に占める投資額に現れており、国家安全保障の一つの大きな武器であると位置付けていることがよく分かる。

 ――日本ではワクチン接種による副反応に懸念を持っている人も少なくない。

 渋谷 コロナワクチンは今や世界で2億人が打っているし、そんなにひどい副反応は今のところ出ていない。副反応はどんなワクチンでもあるが、いたずらに怖がらず、冷静でいてほしい。

 日本の場合、諸外国と比べてワクチンへの信頼性が非常に低く、それを心配している。日本のワクチンの歴史は訴訟の歴史で、そのトラウマがあるのではないか。英国も1日で50万~60万人がワクチンを打っているが、ワクチンに対する信頼性は高いし、至る所でワクチンが大事だと宣伝している。

 今後、仮に日本のメディアがワクチン恐怖症をあおれば、科学的な議論ではなくなってしまう。懸念しているのは、重篤な副反応をメディアが取り上げ、国民が接種をためらってしまうことだ。政府はワクチンの安全性や重要性、副反応に関する啓発に一層注力してほしい。そして、副反応などの情報はきちんと追跡できるようにデジタル化し、透明性を持って公開していくべきである。

 WHOは22日、新型コロナウイルスのワクチンを接種した際の副反応で深刻な事態が生じた際に、補償を行う制度を設けたと発表した。COVAXで無償提供する発展途上国の92カ国・地域が対象だ。日本における接種でも健康被害を補償することになっている。こうした点を国民に周知することも重要だ。

 しぶや・けんじ 1991年東京大学医学部卒。帝京大学市原病院医師などを経て94年より米ハーバード大リサーチ・フェロー。2008年に東京大学大学院教授(国際保健政策学)。19年4月、英キングス・カレッジ・ロンドン公衆衛生研究所の開設に伴い所長に就任(教授)。

一覧へ戻る